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徳島地方裁判所 昭和50年(わ)54号 判決 1978年7月19日

本籍

徳島市川内町加賀須野七八五番地

住居

徳島市川内町加賀須野六九五番地

不動産業

横山正

大正八年二月二五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官秋本譲二出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役五月及び罰金三〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

ただし、この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、徳島市かちどき橋二丁目二七番地の三などにおいて正幸不動産の名称で不動産売買及び不動産取引仲介業を営むものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

第一、昭和四七年分の実際所得金額は四、八〇四万一、七四五円で、これに対する所得税額は二、〇七九万六、八〇〇円であるにもかかわらず、売上の一部を除外するなどして得た資金で不動産を購入するなどの不正手段より右所得金額の一部を秘匿したうえ、昭和四八年三月一五日、徳島市幸町三丁目六〇番地所在の徳島税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一、二五八万六、五五九円でこれに対する所得税額が二〇六万一、五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により昭和四七年分の所得税一、八七三万五、三〇〇円を免れ、

第二、昭和四八年分の実際所得金額は六七三万二、八九四円で、これに対する所得税額は一三九万二、四〇〇円であるにもかかわらず、前同様の手段により所得金額の一部を秘匿したうえ、昭和四九年三月一五日、前記徳島税務署において、同税務署長に対し、欠損金額が七九八万九、八六七円でこれに対する源泉所得税還付額が七万七、五五〇円である旨の虚偽の所得税損失申告書を提出し、もって不正の行為により昭和四八年分の所得税一四六万九、九〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の検察官に対する供述調書四通

一、被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書一五通

一、証人佐川修の当公判廷(第四ないし第六回、第九及び第二一回各公判期日)における供述

一、竹内操の検察官に対する供述調書謄本二通

一、長田金夫の証人尋問調書(速記録)謄本

一、竹内操の大蔵事務官に対する質問てん末書謄本三通

一、大川勲の大蔵事務官に対する質問てん末書謄本

一、吉田晶夫の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、平賀完次の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、近藤忠夫の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、永松恵美子の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、内田利昭の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、被告人及び永松恵美子作成の上申書二通

一、大川勲作成の上申書

一、徳島県土地開発株式会社新開博幸作成の上申書二通

一、大蔵事務官佐川修作成の昭和五二年五月二三日付回答書

一、徳島税務署長大沢清士作成の昭和四九年一〇月二九日及び昭和五〇年三月一一日(余白部分に請求番号54と記載のある分)付各証明書

一、鳴門税務署長蔦健一作成の証明書

一、徳島財務事務所長久優作成の証明書(余白部分に請求番号27と記載のある分)

一、安田生命保険相互会社下田利治作成の証明書

一、日産サニー徳島販売株式会社玉谷純雄作成の証明書

一、徳島日産自動車株式会社川人靖恭作成の証明書

一、徳島県信用農業協同組合連合会新形耕作作成の証明書二通

一、株式会社徳島相互銀行丸川巧作成の証明書五通

一、徳島市農業協同組合加茂名支部高橋美枝子作成の証明書

一、大蔵事務官佐川修作成の査察官調査書

一、検察官高橋寛及び弁護人小川秀一作成の昭和五〇年一二月五日付合意書面

一、検察官西山彬及び弁護人小川秀一作成の昭和五二年五月二五日付合意書面

一、押収してある取引帳一〇冊(昭和五〇年押第六五号の一)、取引帳四冊(同号の二)、投資用売買物件帳一冊(同号の三)、物件帳一冊(同号の四)、物件帳一冊(同号の五)、物件帳一冊(同号の六)、封入売買契約書五袋(同号の七)、講金借用証一袋(同号の八)、封入売買契約書一袋(同号の九)、箱入収支計算書等一箱(同号の一〇)、売買関係ノート五冊(同号の一一)、金銭出納帳二冊(同号の一二)、経費帳一冊(同号の一三)、取引帳二級(同号の一四)、封入土地売買契約書等六級(同号の一五)、封入土地売買契約書等一袋(同号の一六)、封入造成地別収支計算書(同号の一九)、封入銀行関係書類等一袋(同号の二一)、箱入領収書一箱(同号の二二)、箱入計算書一箱(同号の二三)、封入雑書一袋(同号の二四)金銭出納帳一冊(同号の二五)、無題ノート一冊(同号の二六)、事業所得調査書綴一綴(同号の二七)

判示第一の事実につき

一、河上定徳の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、小倉次男作成の上申書

一、平木周二作成の上申書

一、片山忠義作成の上申書

一、寺池光春作成の上申書

一、船渡英子作成の上申書

一、山口始作成の上申書

一、中川勇夫作成の上申書

一、徳島財務事務所長久優作成の証明書(余白部分に請求番号28と記載のある分)

一、大蔵事務官佐川修作成の昭和四七年分脱税額計算書(余白部分に訂正後と記載のある分)

一、大蔵事務官佐川修作成の昭和四七年九月二五日付昭和四七年分脱税額計算書

一、押収してある昭和四七年度領収証等一袋(昭和五〇年押第六五号の一七)、所得税確定申告書(昭和四七年分)一枚(同号の二九)

判示第二の事実につき

一、佐藤徳二の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、井上孝典の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、本地武作成の上申書

一、矢野幸一作成の上申書

一、梯秀夫作成の証明書

一、徳島財務事務所長久優作成の証明書(余白部分に請求番号29と記載のある分)

一、日産プリンス徳島販売株式会社久保秀夫作成の証明書二通

一、住吉農業協同組合辻好武作成の証明書

一、株式会社阿波銀行川内支店貝出伝作成の証明書

一、徳島税務署長大沢清士作成の昭和五〇年三月一一日付証明書(余白部分に請求番号53と記載のある分)

一、大蔵事務官佐川修作成の昭和五三年五月一日付昭和四八年分脱税額計算書

一、大蔵事務官佐川修作成の昭和四九年九月二五日付昭和四八年分脱税額計算書

一、押収してある昭和四八年度領収証等一袋(昭和五〇年押第六五号の一八)、封入四八年度申告分契約書一袋(同号の二〇)、所得税青色申告決算書綴一綴(同号の二八)、所得税損失申告書(四八年分)一綴(同号の三〇)

(法令の適用)

被告人の判示第一及び第二の各所為は各所得税法第二三八条第一項、第一二〇条第一項第三号に該当するので、いずれも所定刑中懲役及び罰金の併科刑を選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪なので、懲役刑については同法第四七条本文、第一〇条により犯情の重いと認める判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法第四八条第二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役五月及び罰金三〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法第一八条により金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法第二五条第一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予することとし、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文によりその全部を被告人に負担させることとする。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、事業税額を経費として控除するにつき法人と個人とでは控除する年分が異なる場合が生ずるのは法のもとの平等に反する旨主張する。

そこで按ずるに、法人と個人との場合で事業税額を経費として控除する年分に差異が生ずるのは、事業税の徴収については、法人の行う事業に対するものにあっては申告納付の方法により、個人の行う事業に対するものにあっては普通徴収の方法によらなければならない(地方税法第七二条の二四)ことから、その納税義務の確定する時点が異なるからである。すなわち、法人の場合は申告により、個人の場合は賦課により、納税義務が確定する。もっとも法人に対して更正または決定が行われこれにより確定する場合もあるが、法人の場合は国税において法人税の更正または決定があったときにおいても、事業税の修正申告をすることが法定されており、従って申告により確定する点は変りなくまたその法定納期限も変らない。個人の場合は申告義務はあってもこれは単なる賦課資料の提供にすぎず、納税義務を確定させる効果はない。従って、個人の場合は賦課の行われた年分において経費として控除することについて違法はない。法人については正当な申告による確定が期待されており、この義務違反に対しては過少申告加算金等(同法第七二条の四六)、重加算金(同法第七二条の四七)等の付加徴収の措置をもって臨むことが規定されているのであり、申告すべきであった時点においてその年度の経費として控除しても不合理ではない。

従って、事業税額を経費として控除する年分につき個人と法人とで取扱いが異なるからといって、必ずしも個人の場合が不利であり不公平であると言うことはできず、弁護人の右主張には左祖し難い。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 安藝保壽)

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